【猫編】第1回:不適切な排尿・排便

はじめに

伴侶動物の問題行動は圧倒的に犬が多く、猫では少ないと思われています。猫は極端に危険な行動を示すことはありませんし、人間側も猫が自分の意志に従うことをそれほど望まず不適切な行動にも比較的寛容です。これらが「猫には問題行動が少ない」と思わせる理由のようです。しかし、本当に少ないかと言えばそうでもありません。あるアンケート調査では猫の家族の約半数は「自分の猫には何らかの問題行動がある」と回答しています。

最も多い問題行動は排泄に関するものです。トイレ以外での不適切な排尿・排便とマーキングに分けられます。次に多い問題行動はさまざまなタイプの攻撃性です。破壊行動、採食に関する問題行動もあります。

猫のしつけはそれほど容易ではありません。元来、猫は「決まりに従うこともできなければ決まりを破ることもできない」とされていますし、犬ほど明確な支配と服従の関係を家族と構築することもありません。

問題行動には何らかの原因があります。猫の場合、多くは何らかのストレスです。ストレスの原因を明らかにして、適切な対処が求められます。ここでは「犬の問題行動シリーズ」と同様に一般的な対処法を紹介します。猫の行動に詳しい方々(ブリーダー、ペットショップ、経験豊富な人)、あるいは動物病院の獣医師に教えを乞うことも大切です。

不適切な排尿・排便

いつもは屋外で排泄する猫が室内で粗相をしたり、室内飼育の猫がトイレ以外で排泄したりということがあります。床、ドアマット、部屋の隅、テーブルの下のカーペットなどが多いようです。水平面での排泄であり、垂直面への排泄(マーキング)とは区別できます。いずれにしても家族にとって困る場所での排尿・排便ですので、まず診断が必要になります。

原因

  • 何らかの病気
  • トイレのしつけの失敗
  • 砂箱の置き場所
  • 使用する砂の材質
  • 排泄しているときの不快な体験

何らかの病気、例えば膀胱炎、尿路結石などの尿路疾患があるとき、糖尿病、下痢のときなどはトイレまで間に合わなかったり、排泄時の痛みを嫌がったりすることもあります。
老齢猫では老化に伴って失敗が多くなることもあります。従って、行動の問題と考えるより先に、病気の診断を行う必要があり、このためには動物病院での受診が必須です。

トイレは生後4週くらいに、母猫の行為をまねて、あるいは本能として砂場での排泄が自然に身に付くことが多く、学習が進むにつれてそれはしっかりとした習慣になります。「トイレのしつけの失敗」と書きましたが、実は一度身に付いた習慣が何らかの原因でうまくいかなくなることが多いようです。その原因が究明できれば問題解決へ大きく前進したことになります。

トイレの砂箱はやや陰になっていて静かな場所に設置します。頻繁に他者(人および同居している他の動物)が通るところ、他者がいつもいる場所は適当ではありません。猫は食事場所と排泄場所を区別します。食事場所近くにトイレを置くと嫌がります。また、トイレ容器、置き場所、猫砂などの突然の変化にも嫌悪感をあらわにします。猫は基本的に変化を好みません。

猫の祖先は半分砂漠のような環境で生活していたと考えられています。トイレに入れる猫砂の種類にこだわることもあります。トイレの砂は比較的細かい粒子を好む傾向がありますし、防臭剤入り猫砂に変更したら急に失敗が続いたということもあります。トイレ掃除の頻度も一因になることがあります。少々の汚れは気にしない猫もいれば、一度使用すると掃除されるまで二度と使わないという猫もいます。

排泄しているときに耐え難い不快な体験(大きな音が聞こえた、同居犬が脅したなど)をするとトイレを使用しなくなります。"回避の学習"といいます。回避が進むと他に好みの場所を見つけてしまいます。できるだけ早い対処が必要です。例えば、カーペットを好むようになったらその場所にトイレを置くか、カーペットの切れ端をトイレの中に置くようにします。

一般的対処法

  • トイレの砂箱が置いてある場所以外には行かせない
  • トイレ以外に排泄したときは徹底的にきれいにする
  • 罰は与えない

可能なら排泄場所以外には行かせないようにすべきです。無理であれば食事場所と排泄場所を区別する猫の習性を利用して、失敗した場所に食器を置くことも一方法です。カーペット・絨毯で失敗したときは、一時的にビニールで覆って快適な排泄場所でないことを教え込むようにします。

失敗場所にニオイが残らないように徹底的に掃除します。ただし、注意が必要なことは香料入り製剤を使用することです。香料が刺激となり、「香料の匂い=排泄場所」と学習することがあります。まず水分を拭き取り、酵素洗剤・生物洗剤で蛋白化合物を除去するのが常套手段です。

罰は猫を混乱させることになります。他の場所での失敗を助長することもあります。どうしても罰が必要なときは、あたかも神が罰を下すようにやらなければなりません(排泄中に隠れたところから水鉄砲で水をかける、音を出すなど)。猫は罰の意味をなかなか理解できませんし、罰は不安レベルを上げるだけです。

ケーススタディ

  1. 失敗した場所は徹底的に掃除する
  2. 何箇所かにトイレを置き、トイレのある場所以外の出入を制限する
    (制限が無理ならトイレを置いたケージに一時的に収容する)
    (トイレ以外はビニールで覆いをした場所に猫を一時的に収容する)
  3. 原因を考慮し(トイレ容器、猫砂の種類、ストレス・病気)、対策を講じる
    (失敗が始まったときの状況変化にヒントがある)
  4. 猫の好みを探るためにいろいろな種類の猫砂を試してみる
    (トイレの側面の高さが問題のこともある)
    (好みの絨毯の切れ端をトイレに置くなども試してみる)